ライフレビュー(写真回想)

この「ライフレビュー」では、写真から自分の心の軌跡を振り返り、写真と心の関係を見つめてみたいと思います。ライフレビューというのは、今の時点から過去を振り返り、アイデンティティーや人生の統合をはかるセラピー手法です。本コーナーでは、自己表現としての写真活動がどのように人の心に影響を与えるのか、また、人の心がどのように写真に反映されるのか、セラピーとしての写真活動(写真療法、写真セラピー、フォトセラピー)や自叙写真法、回想法、投影法などを学ぶ方の参考になればと思います。

 

【注意】私の提唱する写真セラピーの大原則に「制作された写真をその人の心の分析や診断に利用しない」という点があります。これは「第3者が写真を使って撮影者の心の分析や診断をしてはいけない」ということです。なぜなら、写真は見ることも投影的ですので、往々にして鑑賞者である第3者の「色眼鏡」(心の世界の投影)のかかった解釈がされ、誤った示唆を与える危険性があるからです。 それに対して、撮影者が自分の写真から自分の内的世界、自分らしさを感じ取ること、自己分析を試みることはかまいません。つまり、写真が「人にどう見えるか」ではなく、「自分にどう見えるか、写真から何を感じるか」が、自己洞察のプロセスに大切なことです。最初はよくわからないかもしれませんが、写真に慣れてくると、自分の心模様が写真に現れていることがわかってきます。

 

「記憶の泉」  

私たちは、生きているうちに幾度となく、辛く悲しい別れを経験します。そのような時には、自分の感情としっかり向き合ってゆくことが、癒しと蘇りを助けます。悲しい時はたくさん悲しむ。涙を流す。悲しい、辛い、悔しい、と人に話す。これは大切な立ち直りのステップですが、言葉での表現が苦手な人は、写真というイメージに思いを込める(写真として気持ちを表現する)のがよいでしょう。この写真は、当時、言葉で表現することが苦手だった私ですが、寂しさを抱えた心が表現されている一枚です。実像と虚像の境界線が非常に曖昧で、しっかりと現実に向きあえていないこと、空想の世界への逃避傾向がみられます。

 

撮影地:北海道・ブルーリバー  撮影時期:2003年9月  

カメラ:ニコンF100 レンズ:80-200mm F2.8  フイルム:ベルビア50 絞り優先モード:F5.6 +0.7EV 

「春陽」

花は写真を始めた2001年当初からずっと好きな被写体でした。花のイメージから受ける生命力や女性らしさを自分自身に取り込みたかったのかもしれません。2002年頃には花芯部分を大きくアップして撮っていました(これは自分の内面を見つめていることを意味します)ところが、2005年頃になると、写実的な表現からはかけ離れ、ボケ具合を非常に大きくし、心のイメージとしての花を多く撮るようになりました。今、思い返せば、そのような表現を通して、現実世界にあるような苦しみや悲しみのない、理想の世界を夢見ていたのだと思います。

 

撮影地:東京都・昭和記念公園  撮影時期:2005年4月

カメラ:ニコンF100  レンズ:180mmマクロ  フイルム:ベルビア50  絞り優先モード:F5.6 +1.7EV 

「Be with you」

この写真を撮影したときに、フォーカス(焦点)を左と右の花のどちらに置くか、かなり迷った記憶があります。結局、左側の花にフォーカスを置いたのですが、これは「寄りそっている花」よりも「寄りそわれている花」に私の気持ちが向いていたことを意味しています。NPO活動をスタートして間もない当時の私は寄りそうよりも寄りそわれることに意識が向いていた、つまり「活動に共感されたい、賛同してほしい」という無意識の思いが写真に投影されたものです。このように、自由に撮影された写真には、被写体の選び方、構図の取り方、露出、フォーカス位置、ボケ具合などを通して心の状態が表現されます。

 

撮影地:東京都内  撮影時期:2005年5月

カメラ:ニコンF100  レンズ:90ミリマクロ  フイルム:ベルビア100F 絞り優先モード: F5.6

「静寂」

2002年から通い始めた裏磐梯。冬は氷点下になる裏磐梯では、日の出前から三脚を立ててじっと夜明けを待ちます。そしてその静かな時間や物憂げな雪国の朝は、私の心を癒してくれました。今思い返すと、裏磐梯に通いながら私はとても大切なことを教えてもらったように思います。それは「その時が来るのを信じてじっと待つこと」つまり、信じることや忍耐の大切さです。明けない夜はない。厳しい冬のあとに、必ず春は来る。それは当時、苦しい時間を過ごしていた自分にとって「祈り」に似たものだったのかもしれません。この作品には静かさに加えてどこか寂しさが漂っています。そしてそれはそのときの私の心模様でもあります。

 

撮影地:福島県・裏磐梯  撮影時期: 2005年12月

カメラ:ニコンF100 レンズ:28-75mm F2.8 フイルム:ベルビア50 絞り優先モード:F16 +1EV

「山燃える」

この一枚は、その後の作風に大きな影響を与えた作品です。この作品を通して、自分の気持ちを被写体に投影して写真で表現できることを知ります。 この夜明けの写真を撮る直前に、昔の写真仲間と会いました。私のほうから声をかけたのですが、撮影で一生懸命だったのかもしれません。返事が返ってこなかったのですが、そのときに私は無視されたと感じました。ただ、撮影に集中したかったため、それ以上、気に留めることはありませんでした。さて、現像から上がってきた写真を見てびっくりしました。まるでメラメラと山が燃えているかのようです。その時、自分の気持ち(怒り)が写真に写りこんでいることを発見したのでした。撮影時には感じないよう心の奥底に感情を押し込めたのですが、無心で撮った写真にそれがしっかりと表現されていたのです。後日、このエピソードを打ち明けた知人からは「力強いドラマチックな夜明け」とポジティブに評価されて気持ちが楽になったと同時に、写真のチカラを実感させられた体験でした。幼いころ「自分らしくあるな」というメッセージを親から受けた子供たちは、感情表現が苦手で、特にネガティブと思われる感情を感じたりうまく表現することができません。その中でも一番やっかいなのが、怒りの表現です。このときに感じた私の怒りの背後には、幼少期からためこんできた怒りの存在があります。怒りは適切に処理しないと、他者や自分を傷つけます。また、抑圧し続けても長期的には心の健康を害します。気持ちを感じとったり言葉で伝えることが苦手な人、気持ちを抑え込んでしまう傾向にある人にとっては、写真は非常に有効な自己表現のツールです。  

 

撮影地:福島県・裏磐梯  撮影時期:2006年2月

カメラ:ニコンF100  レンズ:80-200mm   フイルム:ベルビア100F  絞り優先モード:F5.6  -1EV

「喜びも悲しみも」

この一枚も私の人生にとって大きな意味を持っています。「山燃える」の体験を通して自分自身のネガティブな感情をも受け入れることができたのですが、それは「自我の統合」という意味を持っています。「統合」という言葉は、心理療法において大変重要な意味を持っています。それは「今まで生きてきた中で良いことも悪いこともあったが、この人生、そんなに悪いものではなかった」や「こんな私も、あんな私も、どちらも私。私は私であってよい」と思えること、癒しのプロセスです。そして朝日は苦しみの先に見えてきた希望の光です。

 

撮影地:福島県・裏磐梯  撮影時期:2006年9月

カメラ:ニコンF100  レンズ:28-75mm F2.8 フイルム:ベルビア100F 絞り優先モード:F16 1EV 

「孤高」

気持ちの向くまま撮影される写真には、写っている被写体に自分の心の世界、往々にして深層心理が投影されます。写真に内的世界が表現されやすいのは、撮影するとき、無意識のうちに自分の心が投影できるような被写体を探しているからです。この写真では、崖の上に立つ一本の木に、必死に踏ん張って生きている自分の姿が投影されています。このときは数名の仲間とともにこの場所で夕景を撮影しましたが、この木を撮影したのは私だけで、他のメンバーは夕焼け空を撮影していました。ところで、絵画療法においては、鬱状態からの回復期や移行期などにしばしば崖や山の急斜面に生える松の木が書かれるといいます。険しい大地の上に木が力強く生きてゆくその姿に、作者が自分自身を投影するのです。そしてそれは頑張っている自分の姿の投影であるとともに、「頑張れよ」という自分への励ましのメッセージでもあるかもしれません。

 

撮影地:福島県・裏磐梯  撮影時期:2006年10月

カメラ:ニコンF100  レンズ:80-200mm F2.8 フイルム:ベルビア100F 絞り優先モード:F5.6

「追憶」

写真は撮るときも、撮った写真を見るときも、自分の心のフィルター(体験や思い)を通して(投影して)、被写体や出来上がった写真を見ています。今の私はこの写真を選びながら、手前の草に自分を投影し、亡き父がいるであろう向こう岸(彼岸)を見つめて佇んでいる自己像をイメージしています。なおこの写真には画像処理は施していません。写真のセピア色は、フイルムに定着した自然な発色として出てきました。そしてこの色合いゆえに、なぜか懐かしい気持ちをかきたてるのかもしれません。 ところで、HPに掲載するためにこの写真を選んだ3日後が、父の命日でした。親不孝者の私はすっかり父の命日を忘れていたのですが、どうやら自分の意識を越えた何かが、無意識のうちにこの作品を選ばせたのでしょう。写真とは本当に不思議なものです。

 

撮影地:福島県・裏磐梯  撮影時期:2006年11月     

カメラ:ニコンF100 レンズ:28-75mm F2.8 フイルム:ベルビア100F 絞り優先モード:F16 +2.0EV 

 

 

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